例え糖尿病があっても合併症を出さないために、血糖値はどの程度まで下げることが必要なのでしょうか? 1990年代に米国、英国、日本で行われた大規模調査研究の結果では、HbA1cを7%未満に維持すると、6~10年後合併症は大幅に抑えられることが分かりました。ただし、これは網膜症、腎症、神経障害の3大合併症の場合であり、動脈硬化については明らかとなりませんでした。動脈硬化は心筋梗塞や脳梗塞を引き起こし、現在日本人の死因の第2位が心臓病死です。
ところが、この調査研究をさらに10年以上追跡してみると、当初の段階でHbA1cが7%以下に維持できた人たちはより悪かった人たちに比べ、その後の血糖管理状況が同等であっても、心筋梗塞の発症や死亡率が有意に少ないことが分かったのです。

つまり、糖尿病を発症した直後からの血糖管理をしっかり良くしておくことが、将来に亘って血管合併症を減らし、心筋梗塞や死亡率をも減らすことが示唆されたのです。このことはグライセミック・メモリー(血糖の記憶)、またはレガシー効果(遺産効果)などと言われます。
*HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー);血糖の約1カ月平均に相当する値。

わたなべ糖内科クリニック